Foojin’Z 6th Generationプロローグ
2021年に5代目Foojin’Zをリリースした時は、TORAYCA®️第三世代カーボンT1100G、M40Xの進化に驚き、NANO JOINTを試行錯誤し、何度もプロトタイプを繰り返しながら自分で設定したゴールに辿り着いた。まさに持っているものを全て投入してのリリースで、次のモデルチェンジでは何のネタもないほど出し切った。とその時点では思っていたが、その後Foojin’RSやロックショアのATLAS、ライトゲームのLEGACYなど様々なジャンルを手がけていく中で、新たにT1100GやM40Xのさらに効果的な使い方も見えてきた。そして技術の進歩はとどまることがなく、東レから3つ目の第三世代カーボン「M46X」のサンプル提供の打診があった。実は東レの最新カーボンはメーカーに一斉リリースされるわけではなく、取引の実績などで提供時期が違う。現在アピアは最速に近い状況で、TORAYCA®️サンプルの提供を受けている。

Foojin’Z 6th Generationのブランク
釣竿のブランクは簡単に言うと、モデルごとに専用にテーパー設計した芯金という金属棒に、カーボンシート(プリプレグ)を幾層にも巻きつけていき、焼成したのちに芯金を引き抜いて出来上がる。このシートはカーボン繊維をレジンという樹脂で加工し、カーボンプリプレグは完成する。このおおもとのカーボン繊維が上記の「T1100G」や「M40X」と呼ばれる品番である。このカーボン繊維の強度と弾性率は常にトレードオフの関係にあり、弾性率を上げると必ず強度は下がっていき、グラフにすると一定のライン上に揃うこととなる。

TORAYCA®️第三世代カーボンのみで構成されたFoojin’Z 6th Generation
ただ技術の進化で、このライン上から大きく外れるほど強度の高いカーボン繊維が開発されることがある。カーボン繊維は今までに大きなイノベーションが二度あった。1970年代にカーボンが実用化された時代を第一世代。続いて1980年代には高強度、高弾性率化された第二世代が開発されることとなり、現在市場にあるロッドのほとんどはこの第二世代に当たる。そして2010年代になると更に超高強度、高弾性率化された第三世代カーボン「T1100G」が開発され、現在はそれぞれの弾性率のカーボンが開発されている。簡単に言うと第三世代カーボンは同弾性率で、第二世代よりも30%程度の強度アップがなされている。さらに特筆するべきはとても柔軟性があり、シャープで張りが強くてとてもよく曲がる。硬いゴムの塊を想像してもらうとイメージが湧きやすいと思うが、強く押せば凹んでいくが、同時に復元しようともする。さらに弾力があるため破損しにくい特徴を持っている。
ちなみに各弾性率で言うと「M46X」が46トン、「M40X」は40トン、「T1100G」は33トンとなる。当然今までと同強度で高弾性にした場合、重量は軽くすることができる。46トンの第三世代がリリースされたことで、今までの5代目ゼータでは「M40X」の40トンと「T1100G」の33トン以外は、TORAYCA®️第二世代のM46JやM40Jを使用していたが、今回の6代目ゼータは「M46X」、「M40X」、「T1100G」とTORAYCA®️第三世代カーボンのみの構成となった。
アピア新技術”X-FORCE100”
5代目ゼータから6代目へと大きく進化した理由はこの”X-FORCE100”という技術にある。ブランクは曲がっていくと必ずねじれが発生するもので、その分ブランクに対する伝達パワーロスが起きる。今回採用するX-FORCE100はこのねじれを抑えるために長期間研究開発してきた技術で、45°にクロスさせたカーボン繊維を一体成型させることで、骨格からねじれを押さえ込もうとする製法となる。(45°は最もねじれに強い角度と言われている)
それに伴い従来はプリプレグにGrass scrim(グラススクリム)というグラスの薄い当て布のような補強材を使っていたが、X-FORCE100は強度が向上しているためそれを排除することができた。アピアも含め全国釣竿公正取引協議会に加盟しているメーカーのロッドにはカーボンとグラスの割合表記が義務付けられているが、カーボン含有率99.8%とか99.6%とかになっているのはこのグラススクリムが関係している。
ではX-FORCE100でカーボン含有率が100.0%になったことで何が違うのか?体感として分かるほどの違いがあるのか?
結論から言えば中級者以上であれば、大きく違うと感じ取れるだろう。
特に感じられるのはティップの収束の速さと、手元に伝わる感度。スピニングリールは構造上、螺旋状にラインが放出されるためキャスティング時にティップのブレが収まっていないと、ラインがブランクを叩き抵抗となって飛距離に伸びが出ない。またルアーフィッシングにおいて水中の様子を得るには、手元を通じて情報を得る高い感度はとても有利に働くわけで、この2点の解消はキャスティングロッドにとって大きなメリットとなる。

理想のジョイントの実現
2021年にリリースした5代目Foojin’Zから、ジョイント部分にAPIA独自の技術「NANO JOINT」を採用している。NANO JOINTはジョイント部分に東レのNANO ALLOY®️技術を採用しており、今までジョイントの弱点となっていた突っ張り感を解消したシステムで、現在アピアロッドの全てに採用している。中でも今回の大きな変更点として、5代目は印籠継ぎだったが6代目ゼータのNANO JOINTは並継ぎになっている。
もちろんこれには理由があり、2ピース以上のジョイントは主に3つの方式がある。
印籠継ぎ:高級ロッドに多く、ティップ部とバット部を同じ太さで作ることができる。


並継ぎ:バット側にティップ部を差し込む方式


逆並継ぎ:バット側にティップをかぶせる方式


それぞれ一長一短があるが、今回優先したのは”強度”と”重量”の2点。
「強度」
並継ぎ>印籠継ぎ>逆並継ぎ
「重量」
逆並継ぎ>並継ぎ>印籠継ぎ
ちなみに全体重量は逆並継ぎが一番軽量にできるが、ティップ部分が太く被せる部分となるので先重りしやすい。逆にバット部分は若干太くなるが手前に重心が寄りやすい並継ぎは、持ち重り感は軽減されむしろ軽く感じる。5代目Foojin’Z以降ロックショア”ATLAS”やロックフィッシュ”BRUTE”、ライトゲームの”LEGACY”を開発している段階で、NANO JOINTと並継ぎの相性の良さに大きなメリットを感じていた。それまで高級ロッド=印籠継ぎが当たり前いう固定概念があり、むしろそこに対して疑問すら抱かなかった。だがこうして俯瞰して見た場合、最もメリットがあるのは並継ぎだと確信するようになった。
それともう一つ、並継ぎに変更した最も大きな理由がある。それはJOINTの精度で、アピアのロッドのジョイントはテーパー差2〜5/1,000mmで仕上げている。このテーパー差で仕上げられる工場はほとんどなく、一般的なテーパー差の2〜5倍の精度となる。アピアが今の工場で作っている最大の理由がそこで、ロッドに携わるようになって20数年、ジョイント精度の向上が課題であった。しかもこの精度で仕上げても、印籠継ぎよりも並継ぎの方が接地面は大きく、ほとんど緩みが出ないジョイントに仕上げることができた。
ただ上記はあくまでJOINTがスムーズに曲がるNANO JOINTを前提とした場合であるが、現時点で“NANO JOINTの並継ぎ”が最適解だと言えると思う。

ブランク外装は小傷に強いSHIELD TECH LIGHT
6代目Foojin’Zのブランク外装は”SHIELD TECH Light”を搭載している。SHIELD TECHは2021年にロックショアロッドGRANDAGE ATLASに初搭載した、小傷に強い特殊な外装テープだ。ペイントやクリアをかけたブランク外装は、磯などでは気をつけていても細かな傷は付き、釣行を重ねるたびに見た目にも当初の輝きは失われていく。SHIELD TECHはこのような小傷はほとんど付かない特殊なテープで、プラスチックの定規で擦れば逆に定規の方が削れてしまうほどだ。(擦れて付いてしまうような小傷に強く、当て傷やブランク強度を上げるものではない)
ただほんの少し重量が増えるので、このSHIELD TECHの軽量バージョンを作った。GRANDAGE LEGACYに搭載されている”SHIELD TECH LIGHT”がそれで、LEGACYはさらに感度を上げるためにテープ跡を平滑に削らずにそのままにしている。(アンサンドフィニッシュ)※LEGACY S86MHTのみ従来のSHIELD TECH
6代目Foojin’ZはLEGACYと同じSHIELD TECH LIGHTをアンサンドフィニッシュにしてブランクに付く小傷からから守り、感度も高める外装にしている。

ガイドについて
6代目Foojin’Zのガイドフレームはすべてチタンフレームで、トップガイドリングはSiC、2番からバットガイドまではすべてトルザイトリングが装着されている。言うまでもなくチタンフレームのトルザイトリングはFUJIガイドの中でも最高級の位置付けをされており、コストは高いがフラッグシップであるFoojin’Zには採用している。
ただ個人的にはロッドのポテンシャルはブランク性能で決定されるので、装着されるガイドで性能が上がることは決してない。(ガイドセッティングが悪いと性能を落とすことはあるが) アピアの多くのロッドがステンレスフレームSiC-Sを標準装備としている理由もまさにそこで、ロッドにかけるコストはできるだけブランク性能が上がるよう、いい素材に振り分けたいと思っている。ただチタンフレームはステンレスに比べて錆びにくいので、性能ではなく手入れという視点では、そこは大きなメリットとも言える。
そして今回の6th Generationのもう一つの特徴は、手前側のガイドの小口径化である。現在のリールのスプール径と角度、PEライン性質を考慮して、ベリーからバット部分のガイド径が1サイズ小さくしている。これはもう投げてもらって感じてもらうしかない。スムーズなライン放出が、さらなる飛距離の伸びを感じさせてくれる。ちなみにティップ部分のガイドは従来通りか、1サイズ上げているモデルもあるのでノットの引っ掛かりは心配しなくとも良い。

現時点での最高到達点
以上、 Foojin’Z 6th Generationの特徴をざっと上げてみた。アピアロッドは創業から基本仕様は4年サイクル、デザインは8〜10年を目安に見直している。日々進化するカーボン素材や技術をひたすら試しながらスクリーニングし、練り上げていくようにしている。もちろん変更するほどのことがない時はその限りではないのだが。今回のFoojin’Z 6th Generationは見た目こそ5th Generationとあまり変わっていないが、中身は全くの別物。特にX-FORCE100の恩恵は先に言ったように、中級者以上なら誰が投げても分かるほどの違いがある。ただこればっかりは店頭やショーでいくら見ても分からないので、ぜひアピアが各地で行っている試投会に参加していただきたい。Foojn’Z 6th Generationは今現在、世界最先端の技術を結集させたシーバスロッドの最高到達点と言える。
