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海からのバトン。対馬の「防波堤」で、アピアが踏み出す第一歩。

Text澤直子

「豊かな海があるから、私たちは大好きな釣りができる」 アングラーにとってあまりに当たり前のこの前提が、今、目に見えない速さで失われようとしています。

アピアの澤直子です。ブログで執筆するのは久々なので(10年ぶりくらい?)、ご無沙汰している方々も、誰?って方も、こんにちは!
自己紹介は割愛させてもらうのですが…このマガジンの前提であるアピアのブログを最初に立ち上げたのは2011年2月でした。もう15年にもなるんですね。昨年のホームページのリニューアルに伴い、発信方法を「マガジン」という形式に変更しました。既に色んな記事を読んでいただいてるかと思いますが、これからもアピアが大切にしている想いや製品、活動についてお伝えしていければいいなと思っています。

今回、アピアは「対馬オーシャンプラスチックバスケット」をリリースしました。これは、長崎県対馬市に漂着した「海ごみ」を原料の一部に使用したプロダクトです。

なぜ今、アピアがこれを作るのか。

そこには、環境問題に人生を懸けて挑む情熱的な人々との出会いがありました。

アピアにとっての始まりは、海を愛する一人の情熱から

きっかけは2022年6月、パタゴニアのホールセールマネージャーであり、私の友人でもある桑原茂之さんからの1本の電話でした。

対馬市役所から海洋ごみ問題の相談を受けた桑原さんは、現地へ飛び、言葉を失います。そこには島の形状や潮流の影響で、年間2万〜3万㎥という気の遠くなるような量のごみが押し寄せる「現場」がありました。

彼は再利用が困難な海洋プラスチックを再び製品の原料(ペレット)へと戻せる工場を自ら探し出し、業界を越えて仲間にバトンを繋いでいったのです。

更に彼はパタゴニアという企業の立場を最大限に活かし、アルペンなどの取引先にも協力を仰ぎながら子供用のソリやスコップを、自社ではフライングディスクといった海洋プラスチック製品を誕生させ、この問題に対して広く啓蒙活動を行ってきました。

一人のアングラー、サーファーとして。彼は自ら再資源化のルートを切り拓くため、業務の枠を超えて日本中を飛び回りました。企業の力と個人の情熱、その両輪で動く彼の姿は、まさに海を愛する者としての「恩返し」を体現するものでした。

万博「ブルーオーシャンドーム」で知った真実

2025年、私は桑原さんに誘われ、大阪・関西万博の「BLUE OCEAN DOME(ブルーオーシャンドーム)」で開催された「対馬ウィーク」を訪れました。

このパビリオンは、2050年までに海洋プラスチックごみをゼロにする「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」を掲げ、海の持続可能性をテーマにした場所です。

2050年には、海にあるプラスチックの総重量が、魚の総重量を上回る...
これを読まれている方でこの話をご存知の方はどれくらいいらっしゃるでしょう。普段皆さんが目にしているフィールドからは想像つかない方もおられるかもしれません。
しかし対馬の現状を具体的に知るにつれ、私は一つの確信を持ちました。このままでは間違いなくそうなるであろう、と。

136年の技術が挑んだ「不純物」という壁

前述の桑原さんから熱いバトンを受け取ったお一人が、釣具業界でもお馴染みの「ドカット」を作る、株式会社リングスターの唐金祐太さんです。

リングスター社は創業130年を超える、プラスチックのプロフェッショナル。しかし、海から回収された「オーシャンプラスチック(OP)」は、波に揉まれ、紫外線を浴び、塩分や砂などの異物が混じった、リサイクルには最も不向きな素材でした。

「強度」を最大の価値とするリングスター社にとって、不純物の混じるOPを使うことは、製品の信頼性を損なうリスクを孕んだ、大きな挑戦でした。

本来、性質の異なる海洋プラスチックを混ぜ合わせることは、成形不良や耐久性の低下、さらには機械の故障を招くリスクを伴います。製品としての強度を維持し、アングラーの皆様が現場で長く、過酷に使い続けられる「最大限の配合率」。それが、試行錯誤の末に導き出された「10%」という数字です。

また、再生コストの高い海洋プラスチックを扱いながらも、誰もが手に取りやすい価格に抑えることにもこだわりました。それは、より多くの方に購入していただくことで、対馬から確実にゴミを減らしていくという、実利を伴う循環を目指したからです。

そしてリングスター社を通じて「対馬オーシャンプラスチックバスケット」1個につき100円が、長崎県対馬市へ寄付されます。

皆様がこのバスケットを手に取ってくださることが、そのまま対馬の海を守る直接的な援助へと繋がります。イメージだけのSDGsではなく、本気で対馬の困っている人々を助けたい。そんな作り手たちやアピアの想いが、この一つひとつのバスケットに込められています。

唐金さん個人のNoteの記事も是非合わせて読んでいただきたいです。
ここに至るまでのご活動とこの問題に真摯に向き合われているその時々の想いを綴られています。↓
対馬の海から見えた現実と希望|唐金祐太|note

もしこの問題にご興味のある方がいらっしゃればこの記事だけでも是非ご覧いただければ嬉しいです。↓

対馬編③ 本気でやっても、なぜ海は綺麗にならないのか|唐金祐太

向かって左が桑原さん。右が唐金さん。
万博会場では対馬の海洋プラスチックを使ったリングスター社のバスケットが買い物かごとして各土産店で採用されました。そして万博終了後には廃棄されることなく、パタゴニアの全国ストアで再利用されることになりました。

話を戻して・・・
お二人の熱量に導かれるように、私は唐金さんが主催する「対馬ごみ問題スタディツアー」へと参加しました。

対馬は「日本の海の防波堤」である

対馬到着後、早速西海岸のクジカ浜にて漂着ごみの視察と清掃活動を行いました。

ここからは一見きれいな海に見えるのですが道を下っていくと。。。

そこで見たものは、私たちの想像を遥かに超える現実です。
大きなブイ、漁網の切れ端、ペットボトル、ポリタンク、流木・・・

海岸は無数のごみで埋め尽くされており、大きなゴミ袋を一人に一つ満タンになるまで清掃活動を行うのですが、その袋は数分でいっぱいになりました。

20数名で参加した清掃活動でゴミはそれなりに集まりましたが、清掃前と後で海岸の景色が変わるわけもなく・・・。

それはそのはず、対馬のごみ漂着量は年間約3万㎥、25mプール約100杯分、事業費は約2億8千万円に上ります。


皆、心の中にもやもやを抱えながら、各自が拾ったゴミを抱えてまた来た道をもどりました。

高低差が激しく重機やトラックが入る道が舗装されていないのも、回収作業を困難にしている一つの要因です。

何故これだけのゴミが対馬に集まるのか、それは地理的な要因が大きいのですが、対馬は日本海の入り口に位置しています。

日本海の入り口に位置する対馬が、いわば「防波堤」となってゴミを受け止めてくれているのです。
もし対馬がなければ、これらのゴミは日本海沿岸のあらゆる場所に押し寄せていたでしょう。

そして対馬に流れ着くゴミの9割は海外、とくに中国と韓国から流出したものです。それが海を渡り、対馬という「防波堤」に引っかかっている。

そして対馬で回収されなかったゴミはまた日本沿岸部に漂着し、そこで再漂流した日本のごみはハワイや太平洋ゴミベルトに流れている。
誰が出したゴミということではなく、これは地球規模の問題だとお話を聞いていて感じました。

回収したものを再資源化する過程

海岸の清掃活動が終わった後は、海洋ごみを回収し、分別し、粉砕しているというクリーンセンターを見学しました。

今回のスタディツアーでコーディネーターを務めてくださったのは、株式会社ブルーオーシャン対馬の代表、川口幹子さんです。川口さんは対馬へ移住後、観光や教育事業を通じて海洋プラスチック問題や対馬が抱える様々な課題の解決に奔走されています。

集められたゴミは素材ごとに分類されます。

発砲スチロールも回収が多いゴミの一つですが、汚れがひどい箇所は一つひとつ手作業で切り落とすという大変な作業を行っておられます。

残った綺麗なものだけを圧縮したものが左のもの↑

それでも少し茶色がかっていて、真っ新の発砲スチロールと同じようには使えません。
温泉を沸かす燃料にできるところまできましたが、ボイラーを購入する段階で補助金が下りなかったそうです・・・

ゴミの回収・リサイクルという直接的な段階では国からの補助金が出るのに、次のステップでは出ないというのも、この問題が抱える構造面での課題のようにも感じました。

漂着ペットボトルは汚れがひどいため再生できないので使い道が課題だそうです。

漂着ごみの中でも最も種類の多いのが”流木”です。

これは流木とプラスチック系のごみを混ぜて、破砕、圧縮し、燃料に変えたもので、“加炭材(かたんざい)”と呼ばれ、燃料として石炭の代わりになることができるそうです。


川口さん「こちらは大手企業との実証実験の最中です。製品を作るために熱源を必要とする産業は多くあり、その多くでカーボンニュートラルへの取り組みは加速していますので、その一端を担うものになれればと思っています。」

さて、ここで皆さんに質問です!
この袋の中には再生可能な破砕プラスチックが330㎏も入っています。

これ、果たして幾らで企業が買い取ってくれると思いますか?

1万円?

10万?

いやいや、5000円くらい?

想像もつきませんでしたが、実際は330円でした。

つまり1㎏1円。

安っ!!

これだけの手間がかかっていてたったの330円!と驚いたのですが、川口さんはそれが無償ではなく、価格がついた(有償化)されたことに意味があるとおっしゃっていました。

これまでは企業に送る運搬費までも対馬市が負担していたそうですが、有償化になったことで、買う側の企業が運搬費を負担してくれるようになったそうです。

そうして買い取った企業さんが漂着プラスチックをペレットに変え、リングスター社のようなメーカーさんがペレットを混ぜた製品を作ることに成功できたことで、このバスケットが出来上がったのです。


(こんな簡単な一文でまとめてはいけないご苦労や情熱が関係者皆様にはあるので、そのあたりは追々お伝えしていきたいです。

今回のマガジンでは到底書ききれないのですが、このツアーでは前述したパタゴニアの桑原さん、リングスターの唐金さん、対馬グリーン・ブルーツーリズム協会の川口さんはじめ、清掃活動や講義でお世話になったCAPPAの皆様、対馬市役所の前田さん、丸徳水産の祐徳さん、daidaiの齊藤ももこさん、そしてツアーに参加された25名の皆さまとの出会いがありました。中には、小学時代から海洋プラスチック汚染に関する研究や啓発活動を行っており、様々な賞を受賞している現在中学1年生の藤井景心君も参加していました。また”ごみの学校”でも複業する(副業とは言わないそうです!)20代、30代の若い女性達の姿もありました。大手ビール会社で環境問題に取り組む素敵なママさんともお友達になれました。
お一人お一人にあらためて敬意を表するとともに、心からお礼をお伝えしたいです。そして今後も活動をご一緒できたら嬉しいです。)

海岸に打ち上げられているゴミは「氷山の一角」

私たちが海岸で目にするゴミの山は、実は全体のごく一部に過ぎません。海岸にはゴミを受け止められる容量(キャパシティ)があり、乗り切らなくなったゴミは再び海へと戻り、またどこかへ漂流するか、海底へと沈んでいきます。

こちらは翌日に訪れた東海岸。再漂流したごみが多いのが特徴で、また海岸も狭くキャパに限りがあるので乗り切れなかったゴミはまた海に戻ってしまうそうです。

今回のツアーに参加されていた、福井県で海洋ごみ問題に取り組む「ソリッドラボ」代表の黒田悠生さんから伺ったお話も印象的でした。 「対馬のゴミは、まだ再生可能な『フレッシュ』な状態のものが多い。北陸まで流れてしまうと劣化が進みすぎて、再生が非常に困難になる」

各地で回収活動が行われていますが、ここ対馬という最前線でゴミを食い止めることは、資源として再生させる可能性を広げるために、極めて重要な意味を持つのです。

川口さんは、その切実な現状をこう語ります。

「究極の目標は、こうした再利用品を作らなくてもいい『脱プラスチック社会』を築き、ゴミそのものを出さないようにすることです。しかし、今この瞬間も押し寄せている危機を無視することはできません」

アピアとして、等身大で踏み出す「第一歩」

自身の子供たちのために学童も作られたパワフルな女性ですが、彼女の言葉が胸に刺さりました。 「皆さんの身近な暮らしと対馬の話が地続きであることを知ってもらえたら嬉しいです。一人ひとりの『ごみにしない』という選択が、対馬をはじめ世界中の海を変えていく力になるのではないでしょうか」

今の私たちにできることは、ごく小さな、ささやかな取り組みです。

アピアとしても、まだ何かができているわけではありません。

だからこそ、まずはこの現状を皆さんに知っていただき、対馬や関係者の皆さんが繋いでくれたバトンを、アングラーの皆様へと繋ぎたい。

このバスケットを手に取っていただくことは、対馬の深刻な現状に興味を持つ「きっかけ」となり、その売上の一部が、現場でゴミと闘う人たちの力になります。

それは小さな一歩かもしれません。でもこのバスケットをフィールドに持ち出すたびに、一瞬でも対馬の海を思い出してほしいのです。

”For Timeless Ocean Utopia”

アピアが掲げる、フィールドへの願いです。

いつまでも、この美しい海で釣りができるように。

海、自然、そしてそこに関わる人々への感謝を忘れず、アピアも一歩ずつ、できることを模索し続けます。

私も個人として日々できることを模索していきたいと思いますし、釣りが大好きな皆さんと一緒に何ができるのか考えたいですし、一緒に未来の海へバトンを繋いでいけたらいいなと思います。

最後に、このアツくるしくて長いマガジンを最後まで読んでいただき有難うございました(笑)